彬義ワールド 2016年10月
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2016.10/27 (Thu)

公園10

part.10

昼休み直前。
加賀はルーティンワークをしていた。
内勤の昼休みは12時から1時、1時から2時までの二部構成。
時間枠制になっていて、12時半に出ても1時には戻らなければならない。
社員全員に各自一時間確保になると会社としてまったく統制がとれない。
加賀が入社した時には昼休みの規則は決まっていた。
出るのが遅くなれば不足時間はサービス残業に含まれる。

直属の上司になる土田課長が近づいてきた。
仕事熱心な上司で、昼休みにちょっと食い込むような仕事をよく持ってくる。
どの部下にも満遍なくやっているし、本人自身が時に、昼休みに出る誰かにコンビニ弁当を頼むこともしているので嫌がらせだとは思われていない。

加賀は穏やかな表情で土田課長に視線を向ける。
「加賀、この書類を総務に届けてくれ、そのまま昼にしていいから」
「‥はい」
たまにお気に入りの女子社員にしているお使いが加賀に回ってきた。
これも珍しいことではないから加賀は課長から書類の封筒を受け取る。

階下にある総務に書類を渡し、またエレベーターに乗って階下に降りると、まだ12時10分前だ。
入社以来初めてかもしれない。
まばらな人波を抜けて歩く。
視線を感じると護がビル前に立っているのが見えた。
出る人、入る人、半分以上が護に視線を向ける。
当の護は加賀が気が付いたのに嬉しそうに破顔し、小さく手を振った。
その手を追って、何人かが加賀を見る。
そんなことは初めてで加賀はギョッとなった。
それでも足は護へと向かう。
「今日は早っかてんな」
護はにこにこしつつ手提げ袋を加賀に渡す。
あまりに自然な行為で、何も言わず加賀は受け取った。
それは適度な重さで、護が渡してきたのが不思議と判った気になる。
良く運んできたと思う。

2人は歩き出した。
阿吽の呼吸で公園へ向かう。

公園には青空の下でランチを楽しむ人が多く、加賀達も目立たない。
空いている3人がけのベンチの間に紙袋を置く。
「ちょっとやけど、いつものんのお礼」
護は笑顔で、和紙にくるまれた弁当を差し出す。
「お礼なんか」
勢いに負けて膝を貸して以来、昼休みには恒例になりつつあったが。
不思議と嫌だと感じていない加賀であった。
「ええのん、ええのん、この方が早うわし寝られるし」
そっちかと加賀は思わず吹き笑いする。
なんとも護らしいと思うと遠慮なく受け取った。

早く食べて少し時間を確保してやろうかと思う。
高級デパートで売っているような懐石弁当だ。
加賀本人が買いに行ったことはないが。
会社で何度か似たものを食べる機会があった。

違う。
似て非なるものであった。
これは恐ろしく上等で美味い。
あっという間に舌が籠絡された。
次から次と旺盛な勢いで料理を口に運ぶ。
「どれにしよか迷うたんやけど、気に入られてえかったわ」
護は嬉しそうに笑っている。
紙袋の中には蓋つきの紙コップに冷たいお茶が入っていた。
渡されたそれを飲む。
鮮烈な茶葉の香りが口いっぱいに拡がる。
初めての経験に目を白黒させる。
「新茶やて」
護も口にして口角を引き上げる。

加賀は食べ終えると紙袋に空き箱を戻し、周囲を見回したが。
近くにごみ箱はなく、足元のベンチの下に置いた。
ごろん
すぐに護るが横になってくる。
加賀のスーツはウォッシャブルで汚れても頓着しないが。
護の服はなんとも高級そうだ。
考えてみれば、毎回、着ている服は違ってもいた。
きちんとクリーニングにでもだしているのだろう。
それで気にならないのか。

もう寝息を立てている。
加賀はポケットから読みかけの文庫を出す。

どうにも集中できない。
本を読んでいるつもりで気づくと護の顔を見ている。
目頭に翳が射すほど彫りが深いがなんともラインは繊細で優美だ。
睫毛は長く美しい扇を描く。
唇のラインも女性のようなやわらかさが不思議と起きていると魅力的だが、男性と感じられる。
欠点がない綺麗な顔立ちをしている。

加賀は見ていて飽きることができない。





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